▶︎ はじめて来られた方は 保育士を辞めたいと思ったら|5ステップの進め方 から読むと、
全体像がつかめます。
この記事の結論
強い言葉で叱られた記憶は、20年たっても消えないことがあります。
それは我慢して慣れるものでも、時間が解決してくれるものでもありません。
今つらいかどうかだけでなく、10年後の自分に何が残るかで環境を選んでほしいのです。
20年以上前のことなのに、思い出すだけで動悸がする出来事があります。
この記事では、私自身が言われた側として経験したことを書きます。
指導する側の話は指導とハラスメントの境界線|施設長の本音で書きましたが、
今回はその反対側からの話です。
発表会のリハーサルで、ピアノを止めてしまった日
私が保育士になったころは、ピアノが弾けることが就職試験の最低条件でした。
課題曲を弾き、その場で渡された楽譜を歌いながら弾く即興演奏の試験まであった時代です。
音楽発表会では、保育士による生演奏が当たり前でした。CDを流すという選択肢はありません。
子どもたちの歌に合わせて、保育士がピアノを弾く。それが普通でした。
日頃の練習では、間違えたことも止まったこともありませんでした。
それでもリハーサルの日、私はとてつもなく緊張してしまい、
途中でピアノを止めてしまったのです。
伴奏が止まれば、子どもたちの歌も止まります。
そのあと、私は呼び出されました。
「脇役のピアノでリハーサルを止めるだなんて、前代未聞だ」
強い口調で、そう言われました。
当時は、それが当たり前の指導でした
誤解のないように書いておきたいのですが、
あの言葉を投げかけた人が特別に厳しかったわけではありません。
当時の保育現場では、強い言葉で叱ることが指導の一部として受け入れられていました。
厳しく言われて当たり前、それで育つのが当然。そういう空気が、園全体にありました。
私だけが特別に叱られたわけでもありません。
だからこそ、あの日のことを誰かのせいにするつもりはありません。
あれは、そういう時代だったのだと思っています。
それでも、事実として残っていることがあります。
あの一言が奪ったのは、ピアノへの自信だけではありませんでした
あの日から、私の中で何かが変わりました。
本番で伴奏を止めることは絶対に許されない。間違えることさえ許されない。
そう思い込んだ私は、勤務が終わってから園で練習し、家に帰ってからも練習しました。
猛練習の末、本番は無事に終わりました。
結果だけを見れば、指導は成功したように見えるかもしれません。
実際、私のピアノの腕は上がりました。
けれど、同時に別のものが残りました。ミスをすることへの恐怖です。
指導が人を伸ばすとき、そこには「次はできる」という自信が残ります。
一方で、恐怖で縛る指導が残すのは「次も失敗するかもしれない」という怯えです。
前を向いて働くための力ではなく、萎縮しながら働く癖が身についてしまう。
この違いは、その場では見分けがつきません。
どちらも表面上は「頑張った」という結果になるからです。
差が出るのは、ずっとあとになってからでした。
20年たっても、体は覚えています
もう20年以上前の出来事です。
それなのに、あの日のことを思い出すと、今でも当時の嫌な感覚がよみがえって動悸がします。
フラッシュバックのように、あの場面が戻ってくるのです。
時間が解決してくれると思っていました。実際には、そうではありませんでした。
仕事を辞めても、年月が過ぎても、体のほうが覚えています。
私が施設長として指導する立場になったとき、言葉を選ぶことに慎重だったのは、
たぶんこの経験があったからだと思います。
自分が受けた指導を、そのまま次の世代に渡したくはありませんでした。
ピアノが必須でなくなってきたことに、救われています
保育士不足が深刻になった今、求人には「ピアノが弾けなくてもOK」と
書かれるようになりました。
音楽発表会も、生演奏ではなくCDを流す園が増えています。
ピアノが弾けないことを理由に、保育士になる夢を諦める若い人がいる。
その現実を前に、業界全体が変わってきたのだと思います。
この変化を、私は心から歓迎しています。
私と同じ思いを、今の保育士さんにしてほしくないからです。
もちろん、ピアノが弾けることは保育の武器になります。それ自体を否定するつもりはありません。
ただ、たった一度のミスで人格まで否定されるような場面は、もう必要ないと思うのです。
今、強い言葉で叱られている保育士さんへ
もし今、あなたが職場で強い言葉を浴びせられているなら、伝えたいことがあります。
それは、我慢して慣れるものではありません。時間が経てば忘れられるものでもありません。
20年たっても残ることが、現実にあります。
「自分が弱いだけかもしれない」と思う必要もありません。
涙の出勤日から見えた、退職への一歩にも書きましたが、心や体が出しているサインは、
たいてい正しいものです。
そして、環境は選べます。
園によって、指導のあり方は本当に違います。
私自身、大規模園と小規模園の両方を経験して、その差に驚きました。
詳しくは規模で保育はこんなに違う|大規模園と小規模園の本音に書いています。
今の職場が保育のすべてではありません。
同じ仕事でも、言葉の温度がまったく違う場所があります。
10年後の自分に、何を残すか
転職を考えるとき、多くの方が「今つらいかどうか」で判断します。
それも大切ですが、もうひとつ加えてほしい視点があります。
この環境に居続けたら、10年後の自分に何が残るだろうか。
スキルが残るのか、それとも恐怖が残るのか。
私の場合は、ピアノの技術と一緒に、20年消えない動悸が残りました。
どこから動けばいいか分からないという方は、
保育士を辞めたいと思ったら|5ステップの進め方で、気持ちの整理からお金の準備、
園の探し方までを段階ごとにまとめています。
今すぐ辞めなくても、知っておくだけで気持ちが楽になることもあります。
あなたの10年後が、穏やかなものでありますように。
※この記事は、あくまで一つの視点として書いたものです。
指導のあり方や受け止め方には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。
「このまま続けるか、辞めるか」で迷っている方は、
辞めるか迷う保育士さんへ|転職活動はしんどい、でも。もあわせて読んでみてください。
何を先に確かめればいいかを書いています。
